連載小説 その6
連載小説 その5
連載短編小説
春麗の女子会
~SFⅣエンディングからSFⅤゼネラルストーリーへ~
6
わたしはまさかと思った。だって、アリスがオカルトを持ち出すなんて思いもよらなかったから。とはいっても、この記事は科学的に考察した結果として書かれているようだった。その内容は、核DNAの解析の結果「オリジナル縄文人のDNAはアジアのどこにも見つからないもので、まったく新しい場所から発生している可能性がある」というものだった。わたしは記事の内容を理解しようと反復して文章に目を通していた。アリスはそんなわたしを横目に話を続けた。
「どうやらリュウの遺伝子に答えが隠されているようね。彼は縄文の遺伝子を色濃く受け継いでいるの。ケンにも縄文の遺伝子はあるけれど比率が違うの」
ベガもセスも、リュウの遺伝子を狙っていると考えれば納得がいく。支配者はもはや生命を蹂躙するのみならず、生命そのものを操作しようとしている。それもこの地球上で発生が謎とされている特殊な遺伝子を狙っている。これ以上生命の尊厳を踏みにじらせるわけにはいかない。わたしはリュウに担わされた希少な遺伝子を闇から守らなければならない使命感に駆られていた。わたしはアリスのタブレットに映し出された文字列を目で追いながら、やはりリュウはこの世界を闇から光へとひっくり返せるかもしれない最重要人物だと確信したのだった。
「データは他にもあるわ。あなたのパソコンに送っておいたから後でじっくり読むといいわ」
そう言ってアリスはわたしのグラスにワインを注いだ。
「久しぶりなんだもの、あなたも一杯どう?」
わたしは外出先ではアルコールを飲まないことにしている。道中でいつ誰と戦うことになるかわからないから。けれど今日は飲みたいと思った。アリスが提示してくれた新たな情報は五里霧中にいたわたしを導いてくれたから。
「そうね、久々の女子会。楽しまなきゃね」
わたしたちはあらためて乾杯した。
「ねえ、春麗。ベガやセスが欲しがるほど魅力あるリュウってどんな人なの?」
アリスは身を乗り出してわたしの目を見て微笑んだ。わたしはいよいよ「女子会」に切り替わったのを感じていた。
「どんな人って言われても・・・。日本人の武道家らしく、謙虚で礼儀正しくて・・・彼ほど誠実な格闘家に会ったことはないわ」
「信頼できる人なのね?」
「ええ」
アリスは頬杖をついてさらに身を乗り出してきた。
「あなた、好きなのね? 彼のこと」
「まさか!」
一気に頬が紅潮したのは、ワインだけのせいだけじゃない。でも、本当にリュウのことをどう思っているのかを聞かれても、答えられない。だって寡黙なリュウと話したことなんて数えるほど。それも刑事か格闘家としての立場で。とはいえ、こんなにリュウのことで頭がいっぱいになっているというのに、実際はリュウとのことを何も知らないという現実。でも、アリスに指摘されてみて、本当はリュウのことを好きなのかもしれないと認めざるを得なかった。だって、とっさにとぼけた自分がわざとらしすぎたから。
(つづく)