連載小説 その8
連載小説 その7
連載短編小説
春麗の女子会
~SFⅣエンディングからSFⅤゼネラルストーリーへ~
8
「ねえ、アリス。ひと目合ったときに、どうしようもないくらいの衝撃が胸に響いた感覚ってどう思う?」
アリスはわたしの目を見た。
「理屈とか条件とかじゃなくて、魂が響いたっていう感覚は、どう解釈すればいいのかしら。そんな感覚は無視してしまえばいいの? あなたならどうする?」
「春麗・・・彼に運命を感じてしまっていたのね?」
アリスは大きく目を見開いてからやさしく語りかけるように言った。そんなアリスに、本心を打ち明けたいと思った。
「どうしようもないことだってわかってる。あなたの言う通り、ジェリーのような現実的な人を選んだ方がいいのかもしれない。でもね、リュウと出会って確信したの。この人なら世界を救えるんじゃないかって。彼が殺意の波動をプラスに転じることができればベガから平和を取り戻せるかもしれないって。それは彼がベガに関わっているからなのか、好きっていう感情なのかよくわからないの」
「それは好きという感情を超えているのよ」
アリスは間髪を入れずに言った。
「あなたの心はさすらい人の彼で埋め尽くされている。ジェリーの入る隙もないくらいに」
わたしはアリスの言葉に息が止まりそうになった。
「あなたは何としてでもベガから彼を守りたいと思ってる。それに彼が殺意の波動から目覚めるためならば、どんなことでもしてあげたいと思っているわ。自由奔放の彼に何一つ求めてなんかいない。あなたは彼に恋しているんじゃなくて、すでに愛してしまっているのよ」
わたしは返す言葉が出なかった。むしろアリスの言葉によって、自分の本心に目が覚めたのだった。
「彼もあなたと同じように、あなたから衝撃を受けたとしたら? 運命の出会いって本当にあるのよ。わたしがそうだった。あのとき感じた衝撃は、確かに理屈も条件もすっとんでいて、この人だ!っていう直観みたいなものしか感じなかったわ」
「そうだったの!?」
アリスは深くうなずいた。アリスは去年結婚したばかり。相手はごく普通のサラリーマン。『お互い職種が違うからうまくやっていけるのよ』って言っていたことを思い出した。
「アリスから直観って言葉を聞くなんて意外だわ」
理系女子らしからぬ答えに思わず言葉について出てしまった。アリスは笑った。
「運命の出会いっていうのは、血が引き合う現象だと思うの」
「血?」
「ええ。人間には磁場があってお互いの血液の中の鉄が磁石のように引き合うのよ。プラスとマイナスが引き合う。これが磁性。それは誰にでも引き合うものじゃなくて血の中にある何かが関与している。ほら、東洋ではこういうことを確か・・・」
「運命の赤い糸」
「そう、それよ。その正体は糸をつむぎ合う二重らせん。つまり遺伝子の意図。要するに、結ばれるべき男女は人間の思考を超えた領域で血と遺伝子によって引き合わされているんだわ」
ロマンチックでなおかつ論理的なアリスの考察に、わたしは少なからず感動していた。だったらわたしはリュウの遺伝子にひかれたのだろうか。それならばリュウだってわたしに何かを感じてくれてもいいはず。
(つづく)