連載小説 その9
連載小説 その8
連載短編小説
春麗の女子会
~SFⅣエンディングからSFⅤゼネラルストーリーへ~
9
「でも、リュウはわたしのことなんて眼中にないわ。少なくとも中国拳法使いの女刑事としか思ってないはずよ」
「それが彼の盲点ね。格闘に没頭するあまり、事の本質を見失っているから殺意の波動から抜け出せないのよ」
「アリスって、どうしてそんなにリュウのことがわかるの?」
「こういうことは、当事者よりも観察者の方がよくわかるものなのよ。彼は今、自分しか見えなくて苦しんでいるのよ」
「そんな彼をどうしたら助けてあげられるのかしら・・・」
わたしはリュウのためならどんなことでもしてあげたい思いに駆られていた。アリスが言っていたように・・・。
「彼自身であなたが運命の女性だと気づかなきゃ殺意の波動から抜け出せないわ。だからあなたはもっと積極的に自分をアピールすることよ。『わたしはここよ!』ってね」
アリスはうれしそうに身を乗り出してわたしの肩を揺さぶった。
「彼に対してはとにかく女子力を発揮することよ。彼、きっと変わるわよ。愛に目覚めたら」
「愛、かぁ・・・」
わたしは上方に視線を向けながら吐息とともにつぶやいた。
『愛は何よりも強い』というけれど、確かに今のリュウにいちばん必要なのは愛かもしれない。だって、リュウが探し求めてきた「答え」が愛ならば、それが「真の強さ」なのかもしれないから。わたしは一縷の望みをつかんだような気持ちになった。
そしてあの格闘一辺倒のリュウが愛に目覚めたらいったいどう変わるのだろうとイメージしてみた。もしかしたら、愛の力で殺意の波動を正のエネルギーに反転させられるかもしれない。それがどんなものなのか想像もつかないけれど。
それよりも想像してしまうことがある。もしも、もしもリュウが『春麗』ってわたしの名前を呼んで微笑んでくれたなら? 彼と肩を寄せ合って見つめ合えたなら? 手を繋いでぬくもりを分かち合えたなら? それだけできゅん!と胸が締め付けられた。そんなささやかな想像でさえ、わたしの心は幸せな思いに満たされる。それはやっぱりリュウが「運命の赤い糸」で結ばれているからなの? わたしは熱く火照った頬に両手を当てた。
「うふふ。彼のおかげであなたはとってもきれいになるわよ、春麗。女は恋愛で身も心も磨かれて美しくなるんだから。今度は彼の方があなたにぞっこんに惚れこんじゃうかもよ?」
「アリスったら、からかわないでよ」
なんてにやけた表情で言いつつも、心はときめき弾んでいた。今日のワインはとびきりおいしくて、つい飲みすぎてしまいそうだ。
そうよ、彼を夢中にさせるくらい女を磨いていればいいんだわ。そのためにはリュウの相手になれるくらいに強くなっておかなきゃ。わたしはやめていた毎朝の稽古を再開することを決心したのだった。
「いい報告を待っているわ。あなたたちの仲の進捗状況をね」
アリスは振り向きざまに手を振った。その後ろ姿が小さくなるまでわたしはそこにたたずんでいた。
「あなたたち、か・・・」
別れ際に言ったアリスの言葉に、すてきな未来に夢を膨らませている自分がいた。わたしがリュウの力になれればきっと、リュウは殺意の波動から抜け出せる。そのとき彼はわたしを見ているはずよ。リュウとふたりで力を合わせたならベガを倒せるとさえ思った。だからお願い。ベガに捕まらないでいて。わたしがベガよりも先にあなたを捕まえるんだから。(了)
お目通しいただき、ありがとうございました。次回はあとがきです。