連載小説 その3
連載短編小説
春麗の女子会
~SFⅣエンディングからSFⅤゼネラルストーリーへ~
3
リュウには家族がいない。帰る家も、安らぎを与えてくれる恋人もいない。リュウという人物を追いかけていくうちに思い浮かぶようになったのは「天涯孤独」という言葉。そんな彼に心惹かれていったのは、わたしもまた家族を失い天涯孤独の身だったからなのかもしれない。
いいえ、わたしには温かい家族がいた。美しかった母の面影は鏡に映るわたしに残され、優しくて強くて包容力ある父の愛に包まれてわたしは育てられた。
何よりも中国で指折りの中国拳法の達人だった父から教わったのは、人を生かすための真善美。同じ格闘家として育てられたとしても、わたしとリュウとは一線を画す何かがある。わたしにとって拳法は父との楽しかった思い出であり喜びでもあったけれど、リュウにとっての格闘術はどんな思いがあるのだろう。
両親の愛を知らず、厳しい師弟関係の中にいて求められてきたのは「強さと力」。
母を知らず独身主義を貫いた轟鉄一門は、やさしさや安らぎ、温かさや弱さといった女性的な性質を育くむことなく、むしろそれらの性質は暗殺拳を極めるためには邪魔でさえあり、排除すべき性質と考えていたのかもしれない。なぜならば暗殺拳は非情に徹しなければ為しえないのだから。
リュウが苦しみぬいて求め続けてきた「強さと力」の結果が「殺意の波動」だったのなら、これまで得た「強さと力」を否定することになってしまうかもしれない。だからこそ彼は「真の強さ」とは何かを追求し、「殺意の波動」を克服するために拳で確かめようともがいてきたのだろう。
静止画面の中のリュウは、格闘の一場面を切り取ったまま動かない。逆光に映し出されたその姿は、太陽を背にして闇を抱いているかのようだ。わたしは、じっと画面に映るリュウの目を見つめていた。精悍な眼差しに宿る澄んだ瞳の奥からは殺意の波動に抗う良心が感じられた。
リュウに内在する殺意の波動は、彼の魂の奥底で何かに抵抗しているために起きる現象なのではないかと思った。曇りなき魂だからこそ、殺意の波動を受け容れられないのではないかと。なぜならば、リュウとはじめて目が合ったあのときに感じた衝撃がわたしを貫いたから。その感覚を今もはっきりと感じることができる。
(つづく)