連載小説 その7
連載小説 その6
連載短編小説
春麗の女子会
~SFⅣエンディングからSFⅤゼネラルストーリーへ~
7
「彼、実力があるのに公式戦で名を馳せているわけでもない。それどころか家も職も持たない無名の放浪格闘家なんでしょう? それなのにベガやセスに狙われているってことは正真正銘の『本物』なのね。それでいて信頼できる人なら、最高の男性じゃない? そうでしょ、春麗」
確かにアリスの言う通りよ。でも、素のままの彼とどうやって関わっていくというの? わたしはこういうとき、たちまち消極的になってしまう。
「そうかもしれないけれど・・・好きになっても仕方ない人だわ」
「あなたって、普段は男性より強いのに、こういうことになるとすっかりしおらしくなっちゃうんだから」
アリスはため息交じりに苦笑した。
「だって・・・。彼は格闘ひとすじのさすらい人よ。一緒にデートしたり将来のことを語り合ったりなんてことを望める人じゃないんだもの」
「じゃあ、あきらめなさい。もっと現実的な人を見つけてあなたもちゃんと幸せにならなきゃダメよ」
「そうね・・・」
アリスが本当にわたしのことを気にかけてくれているのはよくわかってる。わたしも刑事生活6年目。うっかりすると女としてもっとも華やかな時期をベガのために費やしてしまいかねない。このことは心の片隅にずっと置きっぱなしになっていた。
「あなたのことを想ってくれる男性は他にもいるじゃない。たとえば、ジェリーとか・・・」
ジェリーはわたしの先輩にあたる台湾人。何かとわたしをフォローしてくれる頼りがいのある男性だ。ユーモアもあって周りの人たちからも好かれている。そんなジェリーからときどき食事に誘われることがある。彼のわたしを見る目はとてもやさしくて、特別な思いを向けてくれていることにわたしも気づいていた。
「ジェリーがね、わたしに聞いてきたのよ。『春麗は好きな人がいるのか?』って。『春麗は僕じゃだめなのかな、やっぱり彼女よりも強い男にならなきゃ相手にもしてくれないんだろうか』って言っていたわよ」
「そうなの!?」
「ええ。ジェリーは人望もあるしハンサムだし、あなたにはかなわないけれど格闘術の腕前も十分あるわ。彼を断る理由なんて見つからないと思うわよ?」
アリスの言いたいことはわかる。望みのない相手にいつまでもこだわっているなんて馬鹿げている。それよりもわたしをちゃんと見てくれる人と結婚して、ベガと関わりのない暮らしをしている方が幸せになれるはずなのに、どうしてもゆずれない自分がいる。そんな頑なな自分にときどき苦しくなることだってある。そんなとき、赤いハチマキの男の気持ちが、ほんの少しだけわかるような気がするのだった。わたしは素直に聞いてみたいと思った。
(つづく)